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陽炎ーカゲロウー
第7章 八尋
その日は特に何もせず。頭領は、私に行く場所もないとわかっていたようで、出て行けとも何とも言いませんでした。
私は、ただ、小屋でぼんやりとしていました。
その夜遅く、頭領は私を寝かしてから言いました。
「八尋。俺はちと野暮用があってな。しばらく出かける。朝には戻るから、お前はここで寝てろ。ここなら滅多に人は来ねぇ」
私は頷き、そのまま眠りました。

どのくらいしてからでしょうか。
明方近く、バシャバシャと水の音がして、私は目が覚めました。

しばらくその音を聞いていると、いきなり、ずぶ濡れの頭領が帰ってきたのです。

全身濡れそぼって、白い息を吐きながら、ガタガタと震えていました。

頭領はすぐに濡れた着物を脱ぎ、身体を拭くと、乾いた着物に着替えましたが、小屋には暖をとる場所も布団もありません。

頭領は、いきなり私を抱き締めて、
「すまねぇ八尋、ちっとだけ、身体貸してくれ」
そういって床に転がりました。
頭領の身体は氷のように冷たく、ガタガタと震えていました。
私は、求められているのかと思って、頭領の着物を脱がそうとしましたが、それは止められました。
「いや、そういうんじゃねぇんだ、そういうのはいいから。ちっとだけ、身体温めたいだけだから」
そういって、私を抱き締めたまま眠りました。私は抱かれずに人と眠ることがなかったので、不思議な心持ちでした。
ただ、徐々に頭領の身体に体温が戻ってきて、温かくなってくると、とても安心したのを覚えています。
その時、少し血の臭いがした気がして、それは気になりましたが、眠っている頭領には聞けませんでした
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