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陽炎ーカゲロウー
第9章 春の息吹
「市九郎…」

市九郎は僅かに首を傾け、聞こえている素振りを見せる。返事はない。

「あのね、私…子ができたみたい…」

しばしの沈黙の後

「降ろせ」

市九郎は山刀を研ぐ手を止めず、振り返ることもなく言い放った。

「市九郎?」

赤猫はその言葉に手を胸の前でぎゅっと握った。

「餓鬼抱えて勤まる商売じゃねえ」

市九郎はチラリともこちらを見ない。

「…わかってるけど….!」

口唇が僅かに震える。

「解ってねぇから俺に言ってんだろう?それとも何か、俺が、良かった良かった男か女か楽しみだ、って言うとでも思ったか?」

赤猫は、ぎゅっと口唇を噛む。

「私を、護ってくれる、って言っただろ?」

無駄な抵抗だと解っていても。

足掻いてしまう。
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