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陽炎ーカゲロウー
第10章 理由

ぬしにはひっくり返っても出せん答えだがな、といつもの軽口で返そうとした兵衛は、只ならぬ鷺の様子に気付き、言葉を飲み込む。
鷺の顔からは血の気が引き、両手で鼻と口を隠すように抑え、その身は微かに震えている。
「どうした、鷺」
「胸騒ぎが治らないんだ。こんなの初めてだよ。なぁ、兵衛。今日市サンが帰ってきたらさ、もう、解散しよう…」
「鷺…」
「俺は、さ。市サンと出会う前は、ただのめくらだった。文字通りの暗闇の中で、右も左もわからず彷徨ってた。生きる目的なんかなかった。
でも、市サンと出会って初めて、生きるって楽しいって思えたんだ。この十年、面白おかしく暮らせたのも、今の俺があるのも、全部市サンのおかげなんだ。市サンが、いいって言うなら、このまま一生行きたかったけど、市サンが俺らの事を重荷だと思ってるなら、俺らから降りてやらないと。あの人は、俺らを降ろせないだろ…」
震える鷺の肩に手を置き、呟く。
「儂とて同じよ…いつまでも甘えては居れぬわなぁ。…なぁ、鷺よ。
この十年、楽しかったなあ!」
ポンと肩を叩き、歯を見せて二カッと笑う。
「うん…楽しかった…残念だけど、これで幕だ…」
鷺の顔からは血の気が引き、両手で鼻と口を隠すように抑え、その身は微かに震えている。
「どうした、鷺」
「胸騒ぎが治らないんだ。こんなの初めてだよ。なぁ、兵衛。今日市サンが帰ってきたらさ、もう、解散しよう…」
「鷺…」
「俺は、さ。市サンと出会う前は、ただのめくらだった。文字通りの暗闇の中で、右も左もわからず彷徨ってた。生きる目的なんかなかった。
でも、市サンと出会って初めて、生きるって楽しいって思えたんだ。この十年、面白おかしく暮らせたのも、今の俺があるのも、全部市サンのおかげなんだ。市サンが、いいって言うなら、このまま一生行きたかったけど、市サンが俺らの事を重荷だと思ってるなら、俺らから降りてやらないと。あの人は、俺らを降ろせないだろ…」
震える鷺の肩に手を置き、呟く。
「儂とて同じよ…いつまでも甘えては居れぬわなぁ。…なぁ、鷺よ。
この十年、楽しかったなあ!」
ポンと肩を叩き、歯を見せて二カッと笑う。
「うん…楽しかった…残念だけど、これで幕だ…」

