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陽炎ーカゲロウー
第10章 理由
鼻をすすりながら、鷺は冷めきった茶を飲んだ。
しばしの、沈黙。
ようやく落ち着いた鷺が、不意に反応した。
「八尋の足音だ…!」
「何?儂には何も聞こえんが」
「シッ!黙って!静かにして!」
鷺は這いつくばり、床板にぴたりと耳を押し当てる。
神経を集中して、音を聞こうとしている。
目の見えない鷺は、驚く程に耳がいい。常人が目から得る情報をも、音、匂い、感触などで得るからだ。
足音で人を判別するのはもちろん、強弱や音の方向で何処に向かうかもぴたりと言い当てる。杖で足元を探り探り歩いているのに、不思議と人とぶつからぬのは、前から来る人の足音が何処に向かうかを想定して歩いているからだ。その様が見事過ぎて、まるで目が見えているように思えるほどだった。
「間違いない。八尋が走ってる…ヤマがハケたんだ! 」
鷺の口元が綻んだ。
しばしの、沈黙。
ようやく落ち着いた鷺が、不意に反応した。
「八尋の足音だ…!」
「何?儂には何も聞こえんが」
「シッ!黙って!静かにして!」
鷺は這いつくばり、床板にぴたりと耳を押し当てる。
神経を集中して、音を聞こうとしている。
目の見えない鷺は、驚く程に耳がいい。常人が目から得る情報をも、音、匂い、感触などで得るからだ。
足音で人を判別するのはもちろん、強弱や音の方向で何処に向かうかもぴたりと言い当てる。杖で足元を探り探り歩いているのに、不思議と人とぶつからぬのは、前から来る人の足音が何処に向かうかを想定して歩いているからだ。その様が見事過ぎて、まるで目が見えているように思えるほどだった。
「間違いない。八尋が走ってる…ヤマがハケたんだ! 」
鷺の口元が綻んだ。