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陽炎ーカゲロウー
第11章 散

「八尋。儂の家の奥の戸棚にな、焼酎の甕がある。それと、同じ棚の右端の引き出しに薬の包みが入っておるから、引き出しごと持ってこい。それから、筆と、紙と、蝋燭じゃ。」

八尋は頷き、出て行った。

「赤猫殿。湯を沸かしてくだされ。それから、襷をお借りしたい。あとは…できるだけきれいな布をあるだけ全部」

赤猫は、鉄瓶に水を入れ、自在鍵にひっかける。

布もありったけ引き出す。

八尋が甕をかかえて帰ってきた。

引き出しは甕の上に乗っている。

ひと巻の紙と、筆と蝋燭は懐にしまっていた。

「八尋、湯で筆を洗え。墨が落ちたら、蝋を溶かして紙に塗れ。表だけで構わん。」

そこに、市九郎が運び込まれてきた。

「さて。おいでなすったぞ」

兵衛は着物の袖を襷でまとめ、自らの頬を両手でパン、と叩いた。
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