この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
陽炎ーカゲロウー
第11章 散
「八尋。儂の家の奥の戸棚にな、焼酎の甕がある。それと、同じ棚の右端の引き出しに薬の包みが入っておるから、引き出しごと持ってこい。それから、筆と、紙と、蝋燭じゃ。」
八尋は頷き、出て行った。
「赤猫殿。湯を沸かしてくだされ。それから、襷をお借りしたい。あとは…できるだけきれいな布をあるだけ全部」
赤猫は、鉄瓶に水を入れ、自在鍵にひっかける。
布もありったけ引き出す。
八尋が甕をかかえて帰ってきた。
引き出しは甕の上に乗っている。
ひと巻の紙と、筆と蝋燭は懐にしまっていた。
「八尋、湯で筆を洗え。墨が落ちたら、蝋を溶かして紙に塗れ。表だけで構わん。」
そこに、市九郎が運び込まれてきた。
「さて。おいでなすったぞ」
兵衛は着物の袖を襷でまとめ、自らの頬を両手でパン、と叩いた。