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陽炎ーカゲロウー
第11章 散
戸板に乗せられた市九郎は、揺られて更に血が流れたのだろう。既に意識が朦朧としていた。

しつらえられた床の上に市九郎をおろすと、手下の者たちは出ていく。

「赤猫殿、水を。」

赤猫が柄杓に水を汲んでくると、兵衛は引き出しの中から一つの包みを選び、中の丸薬を市九郎の口に放り込む。
市九郎の体がびくりと震える。

「案ずるな。気付薬じゃ。赤猫殿。水を飲ませて下され。」

赤猫は、柄杓を市九郎の口元に持っていこうとしたが、思い直し、水を口に含んで口移しで飲ませた。

身体がビクビクと痙攣し、市九郎の目に光が戻る。

「市九郎!!」

赤猫が呼びかけると、市九郎は僅かに頬を歪ませた。

「下手、うっちまったな…」

「市九郎殿、夜中ですでの。声が響いては困る」

兵衛は市九郎に猿ぐつわを噛ませた。

「痛みまするぞ。」

市九郎の着物を開くと、下帯まで血に染まっていた。

そのまま、甕の柄杓で焼酎を掬い、傷口にかける。

「ぐぉっ!!」

猿ぐつわのおかげで、声はそれほど響かなかったが、市九郎の目は血走り、大きく身体を仰け反らせる。

焼酎は血と混じって赤くなり、敷布を見る間に染めていく。

兵衛は気にせず、焼酎を数杯かけた。

その度に、市九郎の身体がビクンビクンと跳ね上がった。
布で傷口を抑えながら、

「八尋、紙を。」

八尋が蝋を塗った紙を、市九郎の脇腹に当てる。

「それは…?」

赤猫が尋ねると

「こんなもので蓋ができるかはわからん。ただ、布だけじゃとどんどん血が染み出してくるでの。ただの思い付きよ。期待はせんで下され。」

その上からきつく布を巻きつける。

「反れたようじゃの。鉛玉は残っておらんわ。ただ、肉を持っていかれとるし、何より血をだいぶん失うておる。儂に出来るのはここまでよ。後は市九郎殿次第じゃ。」
市九郎の猿ぐつわを外し、

「何かあっても困るし、今宵は儂等もこのあたりで休ませてもらえんかの」

「猫ちゃん、どうする?市サンと二人になりたい…?」

赤猫はかぶりを振った。
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