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陽炎ーカゲロウー
第11章 散

明け方
赤猫は一睡もせず、市九郎の手を握り続けていた。
休んでいた三人も市九郎の周りを囲んでいる。
兵衛は、気難しい顔のまま微動だにせず。
鷺は、市九郎の肩口あたりに遠慮がちに手を置いている。
八尋は、真っ赤に泣きはらした目で少し離れて見守っていた。
別離の時が迫っている。
誰も口には出さないが、皆感じていた。
兵衛の思いつきだという蝋を塗った紙も、傷を塞ぐことはなく、布ほど血を吸い取りはしないまでも、僅かな隙間から血が漏れ出す。
逞しかった日焼けした肌も、すっかり血の気が引き、顔は土気色だった。
市九郎が焦点の合わぬ目を彷徨わせ、赤猫を呼ぶ。
「私はここだよ」
赤猫はそっと市九郎の頰に触れた。
「、か…ね、こ…そこに、いるのか…?もう、目が…見えねぇ…」
「市九郎!」
赤猫はぎゅっと市九郎を抱き締めた。市九郎が美しいと言った、左側の頰を市九郎の顔に押し当てる。
「…サチ…」
不意に呼ばれた、元の名に、赤猫が顔を振り上げ、市九郎を見る。
「…や、や…産ませて、やれねぇ、で…すまねぇ…」
「⁉︎」
赤猫は大きく目を見開き、眉を顰めて市九郎の手を握る。
市九郎の目の、弱かった光が消えていく。
乾いた唇から漏れ出るか細い息が、止まる。
ゆっくりとした、胸の鼓動が、徐々に弱まり、間隔が開き、やがて、消えた。
「市九郎…?」
焦点の合わぬ目で
乾ききった口唇で
途切れ途切れに最後に紡いだ言葉は。
不器用な男の、精一杯の謝罪だった。
赤猫は一睡もせず、市九郎の手を握り続けていた。
休んでいた三人も市九郎の周りを囲んでいる。
兵衛は、気難しい顔のまま微動だにせず。
鷺は、市九郎の肩口あたりに遠慮がちに手を置いている。
八尋は、真っ赤に泣きはらした目で少し離れて見守っていた。
別離の時が迫っている。
誰も口には出さないが、皆感じていた。
兵衛の思いつきだという蝋を塗った紙も、傷を塞ぐことはなく、布ほど血を吸い取りはしないまでも、僅かな隙間から血が漏れ出す。
逞しかった日焼けした肌も、すっかり血の気が引き、顔は土気色だった。
市九郎が焦点の合わぬ目を彷徨わせ、赤猫を呼ぶ。
「私はここだよ」
赤猫はそっと市九郎の頰に触れた。
「、か…ね、こ…そこに、いるのか…?もう、目が…見えねぇ…」
「市九郎!」
赤猫はぎゅっと市九郎を抱き締めた。市九郎が美しいと言った、左側の頰を市九郎の顔に押し当てる。
「…サチ…」
不意に呼ばれた、元の名に、赤猫が顔を振り上げ、市九郎を見る。
「…や、や…産ませて、やれねぇ、で…すまねぇ…」
「⁉︎」
赤猫は大きく目を見開き、眉を顰めて市九郎の手を握る。
市九郎の目の、弱かった光が消えていく。
乾いた唇から漏れ出るか細い息が、止まる。
ゆっくりとした、胸の鼓動が、徐々に弱まり、間隔が開き、やがて、消えた。
「市九郎…?」
焦点の合わぬ目で
乾ききった口唇で
途切れ途切れに最後に紡いだ言葉は。
不器用な男の、精一杯の謝罪だった。

