この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
陽炎ーカゲロウー
第11章 散
明け方

赤猫は一睡もせず、市九郎の手を握り続けていた。

休んでいた三人も市九郎の周りを囲んでいる。
兵衛は、気難しい顔のまま微動だにせず。
鷺は、市九郎の肩口あたりに遠慮がちに手を置いている。
八尋は、真っ赤に泣きはらした目で少し離れて見守っていた。

別離の時が迫っている。

誰も口には出さないが、皆感じていた。

兵衛の思いつきだという蝋を塗った紙も、傷を塞ぐことはなく、布ほど血を吸い取りはしないまでも、僅かな隙間から血が漏れ出す。

逞しかった日焼けした肌も、すっかり血の気が引き、顔は土気色だった。

市九郎が焦点の合わぬ目を彷徨わせ、赤猫を呼ぶ。

「私はここだよ」

赤猫はそっと市九郎の頰に触れた。

「、か…ね、こ…そこに、いるのか…?もう、目が…見えねぇ…」

「市九郎!」

赤猫はぎゅっと市九郎を抱き締めた。市九郎が美しいと言った、左側の頰を市九郎の顔に押し当てる。

「…サチ…」

不意に呼ばれた、元の名に、赤猫が顔を振り上げ、市九郎を見る。

「…や、や…産ませて、やれねぇ、で…すまねぇ…」

「⁉︎」

赤猫は大きく目を見開き、眉を顰めて市九郎の手を握る。

市九郎の目の、弱かった光が消えていく。

乾いた唇から漏れ出るか細い息が、止まる。

ゆっくりとした、胸の鼓動が、徐々に弱まり、間隔が開き、やがて、消えた。

「市九郎…?」

焦点の合わぬ目で

乾ききった口唇で

途切れ途切れに最後に紡いだ言葉は。

不器用な男の、精一杯の謝罪だった。
/100ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ