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催眠玩具
第6章 夢の叶う時
「クレームの電話の対応にはコツがあってね……電話を受けながら相手の名前を三回以上、なんでもいいからとにかく会話に挟むといいんですよ」
「どうして?」
高城さんとそんな会話をしたことがある。
他愛もない話。
でも、この日は大切な事があった日なので、何年か経った今でもよく憶えている。
会社の近くのカフェテラスで。
私は紅茶。彼はコーヒー。
「……名前を呼ぶというのは相手を受け入れるというサインなんです。だから、呼ばれると相手は心を許す。繰り返せば……最後にはどんなに怒っていた相手でも、こちらのことを信頼するようになるんです」
「魔法みたい。本当かしら?」
「試してみますか……若槻さん」
「早速来たわね」
私の名前を呼んで、反応を確めるようにわざとらしく見つめる愛嬌たっぷりの彼の表情に思わずクスリとしてしまう。
私より五つ年上なのに、まるでそう見えないのはいつも溌剌とした身のこなしや、絶やすことのない快活な笑顔のせいだろう。
高城さん……高城敬(たかぎけい)は、人の目を自然と惹きつける、そんな男性だった。