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催眠玩具
第1章 プロローグ

「や……やめて……ください」

「何を? 恥ずかしい事を言うのを? それとも……こっちのこと?」

 ペニスの先端をきゅっと摘まむ。

「ああ、うっ……」

「ね……ほら、ここ。あなたのズボン……何か湿って来ていないかしら……」

「そ……そんなこと……ないっ……です……」

「そう? 確めたほうがいいわ」

「ひ……必要ありません……」

「本当はベトベトになっているんじゃないの?」

「なってなんか……いま……せ……あ、うっ!」

 ボソボソと囁く二人の声は、完全に車内の騒音に掻き消されている。

 周囲に立ち並ぶ他の乗客たちは皆、無理な姿勢を堪えるのに精いっぱいだし、運良く座席にありつけた者は男も女もスマートフォンの画面に夢中になっている。

 と、彼らが一人また一人と、手にしていた暇つぶしを仕舞い始めた。

 車内アナウンスが流れ、終点への到着を告げる。
 この瞬間特有のほっとしたような空気と電車の減速。
 周囲の人々の注意力のあり方が、下車に向けてのものへと変わり始めた。

 女が体を離す。
 少年は床にずり落ちていた学生鞄を拾い上げ、体の前に両手で持つ。それで自分の体を守るかのように。

 これで終わり。
 扉が開いたら、悪夢のような時間は終わるのだ。

 しかし、ホームに滑り込んだ列車が、その扉を開く直前に女は再び少年の耳元で囁いた。

「ねぇ、学校なんか休んじゃいなよ……」

 誘うような、しかし有無を言わせぬその口調に、少年の背筋にゾクリとした何かが走る。
 
 女の望む終点はまだ遠く先にあるのだ。
 そして……逃げることはできないと、少年にはわかっていた。





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