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恋花火***side story
第31章 冷たいキス
その証拠に、俺の母親は一度も病院に来なかった。


代わりに菜月のじいちゃんは何回も来たけど。


退院のときも、母親じゃなくて菜月のじいちゃんが来た。


「…別に来てくれなくてもよかったのに。」

「迷惑だったか?」

「……。」


迷惑だなんて思うはずがない。


「…ありがとう。寒いのに…じじい風邪ひくなよ。」


そう言うと、菜月のじいちゃんは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。


「ラーメンでも食ってこう。」

「え、いいよ。いらない。」

「子どものくせに遠慮するな。」


半ば強引に付き合わされた。


しかも、どっかの店のラーメンかなと思っていたら


なんとじいちゃんの手作りラーメンだった。


まぁ市販の麺を茹でたやつなんだけど。


「おまえこれ好きだろ。」


そう言って、チャーシューをたくさん載っけてくれた。


「しなちくはじいちゃんがいただこう。」

「よく覚えてんな。俺がそれ苦手だってこと。」

「当たり前だろ。何回作ってやったと思ってるんだ。」


じいちゃんは、俺たちが小さな頃から、こうしてよくラーメンを作ってくれていた。


俺はチャーシューが好きで、菜月が最後まで丁寧に残してあるからそれまで食べた。


しなちくは苦手だったから、サービスで菜月にいっぱいあげた。


「…うま。」

「だろ?」


じいちゃんはほっぺをまん丸くさせて笑った。


ラーメンは熱くて、美味しくて


身体はもちろん、心まであったかくなった。


「…タケル。目から鼻水が出てるぞ。」

「うっせー。」

「おまえは、昔から本当にいいこだ。ありがとうが言える、お利口さんだ。」


これは湯気が目にしみただけだ。


じいちゃんに頭撫でられて子ども扱いされたからって訳じゃないし


久しぶりに手作りの料理食ったからって訳でもねー。


それに俺はお利口さんなんかじゃねーし。


勘違いすんな。
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