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恋花火***side story
第35章 潮騒
「…どうした?」


東京へ向かうその足で、レンの家を訪れた。


俺は宝物をレンに託すことにした。


もう、二度と家には帰らないし


残されたものは煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。


そう思ったけど、母親の恋人だけには捨てられたくなかったものがひとつだけ。


菜月からもらったスパイク。


それだけは。





レンは深くは聞いてこなかった。


「これは預かっておくだけだから、絶対取りに来いよ。」

「たぶん。」


半笑ではぐらかしながら答える俺に、レンは真面目な顔をして、「絶対だ」と言った。














東京へ向かう新幹線の中


ひとつ忘れ物をしたことに気付く。


取りに戻ろうかと思ったが


…もう、自分には必要ないものだったと思い直し、諦めた。


菜月からもらったミサンガ。


小学校の時にもらったもの。


俺はこれまで、菜月からたくさんの物を貰った気がする。


怪我をしませんようにと願いを込めてくれたミサンガ。


中学の先輩に壊された代わりのスパイク。


甘い甘いクリスマスケーキ


全てを希望に変えてくれた運動会のお弁当


そして


人を愛する気持ち。







新幹線が進むにつれ、海や野原は見えなくなり


トンネルをくぐるたび、背の高い建物が増えていった。


終着駅は東京。


菜月のいない世界に、俺はとうとうやってきた。
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