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恋花火***side story
第35章 潮騒
それはとても幸福で


夢のような時間が流れた。


…そう、これは一瞬の夢だから、覚めなくてはならない。






「なんでだよ!」


陸先輩の声が聞こえた。


部室の窓の隙間から聞こえたその声は


俺を現実の世界へと引き戻した。

















「タケル!」



振り返ってはいけない。


俺はいつも、振り返っては菜月の姿を確かめた。


だけど、もう


振り返ってはダメなんだ。


顔を見たら止まれない


抱きしめたくなる


早く


今ならまだ間に合うから






地獄に堕ちてもいいだなんて


それは俺の独りよがりな想い


菜月は地獄になんか行っちゃダメ。


俺なんかに捕まったらダメだから。










やっとの思いで振り切って、家に帰った。


さっきまで腕の中にいた菜月の温もりは、とうに消えた。






もう家の中が荒らされていようと、どうでもいいと思う自分もいて。


菜月がいない世界は、今よりももっと辛いのだろうか。
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