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恋花火***side story
第9章 SAYONALOVE
郁には現実見ろって言われた。


育てられるはずなんかないって。


だけど諦めきれなかった。


産まれることだけが最善じゃないと郁は言ったけれど


本当に?






3月になり、合格発表の日。


掲示板には、俺の受験番号があった。


俺はすぐ、エリカに電話をかけた。


「…はい。」


久しぶりに聞いたエリカの声に、それだけで涙が出てしまいそうになる。


「今から会いに行ってもいい…?」


会ってどうするのかと聞かれても答えられない。


けれどとにかく会いたかった。


会いたくて会いたくて、気が狂いそうなくらいだったから。


「…ダメ。」

「なんで…」

「後ろ見て。」


言われて振り向くと、そこにはエリカが立っていた。


「外出て大丈夫なの?もうあいつに乱暴されてない?」


質問攻めの俺のことをエリカは笑った。


俺の大好きな笑顔だ。


「身体冷やしちゃダメだよ。赤ちゃんも寒いから…」

「そうだね。」


エリカは微笑んだ。


周りを確認する。


あいつの姿はない。


エリカの受け答えから、まだおなかに赤ちゃんがいると知り安心する。


「…エリカ。」

「なに?」

「俺、高校行かないで働くから。近くのガソリンスタンドで求人出てたんだ。」


しかも経験不問だし、募集年齢は16からだったし。


「いくらかだけど貯金もあるんだ。だから…産んでよ。赤ちゃん。」


エリカは俺の言葉に驚いていた。


エリカはお母さんになるんだ。


だって、なんとなくだけど、いつもよりも優しい顔をしている。


まだ産まれるまでは何カ月もあるけど、女の人はもう、お母さんの顔になるんだね。


あの男は許してくれたのかもしれない。


こうしてエリカのおなかに赤ちゃんがいるということは、きっとそうだ。


俺はこれからの事に、不安もあるけど楽しみが多かった。


エリカと家族になれること


それがたまらなく嬉しくて。


「ところでいつ産まれるの?」


そう問いかけると、エリカは低く、冷たい声で


「…産まれないよ。」


そう、言った。




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