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キセイジジツ
第12章 作戦

長田の動きがピタッと止まる。

玄関の方向に顔を向けてから、私の顔へと戻す。

出るべきか迷っているのだろう。

しつこく鳴り続けるチャイムの音が私達を冷静にしていく。

残念なような、ホッとしたような複雑な気持ちで長田を見つめ返すと、それに気づいたのか私の頭をヨシヨシと撫でて体を離した。

「出てくるね」
「は…い」

か細い声で返事をすると長田はふっと軽く笑って玄関へ向かった。



長田が玄関の扉を開くと頭を垂れた大和がいた。

「…大和?どうした、今日は休みだよ」
「……と……して……」
「え?よく聞こえねえんだけど…」

大和が顔を上げる。

「親父とケンカして出てきた。恭介さん、悪いけど…今日泊めてくれない?」
「はあ?い…いや、今日はちょっと…」
「他に行くとこないんだよ!今日だけでいいから!…未成年が困ってるのに見捨てるんだ?!」
「あー……」
「恭介さんち部屋いくつも空いてるじゃん!…何か都合悪い事でもあんの?」
「はあー……分かったよ。実は先客がいるんだ。迷惑かけるなよ」
「やった!大人しくしてるからさ!」

そうして大和を招き入れた。


居間へ通された大和はソファーに座ってる悠里を見つけて声を上げる。

「悠里!…ちゃんがいる!」
「え……大和くん…?」

私はなぜ大和がいるのか分からずに長田へと視線を向けると、眉を下げて困った様子で簡単に状況を説明してくれた。

「……そんな訳で晩ご飯が済んだら悠里ちゃんは家に送るから」
「あ、はい…」

今日はいやらしい事は関係なく泊まろうと思ってただけに、大和の出現によって帰る事になって残念としか思えなかった。

ーーーやっぱ大和くん苦手…。

「じゃ準備しようかな」
「手伝います!」

長田に続いて台所に近寄ると、長田が自分の手と口を私の耳へと近づけてコソッと声を出す。

「大和の事、ごめんね」
「大丈夫です…」

ーーー本当は大丈夫じゃないけど。

「あの子のウチ、少し複雑でさ。たまに逃げてくる事はあったんだけど泊まるパターンは初めてで…無下に出来なくてさ…」

ーーー長田さんらしいな。

「……続きはまた今度ね」

長田が口角を上げて艶やかに微笑む。

「っ…!」

きっと今の私は茹でタコみたいに顔が真っ赤だろう。

「さ、準備しよ」

私は顔をうつむかせて準備を手伝っていた。
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