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禁断の果実に口づけを
第10章 普通に憧れる洋子
床に落ちゆく髪の毛。
軽くなるにしたがい、気持ちまで軽くなってゆく。
心地良く、ハサミの軽快な音が耳に届く。
鏡に映る石黒を見れば、真剣な眼差しで目の前の髪をハサミで落としていった。
『職人魂を感じる。
仕事に対してプライドのある人間は、こういう目つきになる。
営業所で見る女達は、こういう目つきの女は数が限られていた。
惰性で仕事をしていて、上手くいかない事は世の中が不景気なせい、魅力ある商品じゃないからなどと、何かのせいにして自分を正当化する能のない女ばかり。
私はそんな能なし女達を嫌悪する様になり、自分を生き難くしてしいった。
能なしを上手く掌で転がして生きたの方が、数倍楽だったろう…』
「お客様、長さはいかがでしょう?」
石黒が鏡を見ながら私に尋ねた。
短くなった髪をしみじみ眺めた。
今までの重苦しいイメージを覆す程の仕上がりだ。
「こんなに短くするのは、学生以来だわ…
何だか自分じゃないみたい」
「お気に召しませんか?」
「いいえ、凄く気に入ってるの。
今まで、ボブなら間違いないし、髪をイメチェンするなんて考えてもなかったから不思議な気持ちよ」
「お似合いですよ。
変わりたいと思った時点で女性は変わるチャンスが巡ってくる様な気がします」
「えっ?」