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禁断の果実に口づけを
第16章 砂の城
「くだらない事を考えるより、非現実な世界で息抜きした方がマシさ」
輝のその一言は健の胸に突き刺さる。
自分が家庭を省みたり、輝の子育てに協力してきたわけでもない。
習いごとを始めさせた。塾にも通わせた。あの学校を受験させる。
などの事後報告のみを優美子かは聞いて、必要なお金のみを渡してきただけだった。
仕事をつい優先にしてしまい、キャッチボールを一緒にするとかサッカーのドリブルに付き合うなどという、親子の思い出というものは輝にはない。
だから、今息子がベッドに寝っ転がって携帯ゲームに夢中になろうとも、『勉強はどうした?』『ゲームなんてくだらない』などと心に思う事を言えた義理ではなかった。
「輝のくだらない事ってなんだ?」
「勉強していい大学に入ってその先に何があるの?
その先すらも分からないのに、それを強要するってくだらなくない?」
「……そうだな。輝の言う通りだな。
俺は勉強が出来たわけでも、いい大学を出た訳でもないからな…。
自分に出来ない事は人には言わないさ。
ただ、夢はあった。
自分の会社を作って、社長になりたくてな。
漠然とそんな事を輝と同じ歳くらいの時には思ってたよ」
「父さんは、夢、叶って良かったね」
「ああ。お前に後を継いで欲しいと思っても、輝がやりたい事を優先すればいい。
ゲームに現実逃避しても、いつか必ず、目の前の現実を真面目に考えなきゃいけないんだからな」