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禁断の果実に口づけを
第16章 砂の城
 

 健が家に帰ると、リビングでテレビを見て寛ぐ優美子。

 「あら、おかえりなさい」と健を見ずに声だけ掛ける。

 「ああ、ただいま」

 そんなのはお互いに慣れっこだった。
むしろ、いつもと変わらぬ挨拶を交わしただけだ。
健の分の夕食などを用意もされてない。
仕事で遅くなるのが日常茶飯事の健にはそれも当たり前となっていた。

 「輝は?」

 「部屋じゃないかしら?」

 テレビドラマに夢中な優美子は、聞かれた問にだけ答え、視線はテレビ画面に向いたまま。
そんな事も当たり前で慣れた事なのに、真雪から決定的な事を言われた今夜はこの溝にも敏感になれた。

 そんな優美子の姿を真後ろから暫く見ていた健。
優美子の視線はその間も健とは一度も合う事はなかった。
諦めた様に健は輝の部屋に向かった。
部屋をノックすると、輝の声は面倒臭そうに応答する。
『入るぞ』そう言って、健は輝の部屋に入った。
輝も健を余り見ようとはせず、スマホのアプリゲームに夢中だ。

 「冬休みなのにゲーム三昧か?」

 やや呆れた健が輝に問い掛けた。
 
 「勉強の合間の息抜き」

 「そっか。
輝にはゲーム以外で夢中になれるもんないのか?」

 一瞬、ゲームから目を離し、健を見た輝。
でもまたすぐに視線は手元の携帯ゲームの画面に戻る。
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