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禁断の果実に口づけを
第20章 道標
 
 最初は…お金持ちで気前のいい健さんに近づいて仕事を卒なく熟したかった。
ホステスをしていた時、健さんの指名していた明美さんは同伴の度にお洒落なお店で食事をして、洋服や宝石などをプレゼントして貰ってました。

 『いい男はいいものしか知らないのよ。
そういう男を捕まえた女は勝ち組かもね?』

 なんて自慢げに言うんです。
でも、いつもいいものに囲まれている健さんやそれにあやかる明美さんが正直羨ましかったな……。

 その頃の私の贅沢は疲れた時に甘い物が欲しくなった時、菓子パンを一つ自分の為に買う事でした。

 自称勝ち組の女と自分を比べるとみすぼらしいのかなって。

 仕事を充実させたい下心はありました。
それは否定しません。
外交員は顔を売ってナンボ。
話してナンボ。
保険の知識を教えてあげてナンボ。
なんて、研修の時に習うんですよ。
健さんに挨拶に行き、それを実践してみただけでした。

 『朋ちゃんの就職祝いに一つ付き合うよ』
なんて言いながら、一番成績を評価して貰える保険に入ってくれたんです。

 そこから会う機会が徐々に増えていって、お客様を紹介して貰ったり、お洒落な店や有名なホテルでランチをご馳走してくれる様になって帰りにはケーキやクッキーなどをお土産に持たせてくれました。

 明美さんの言葉も思い出していたんです。
私も勝ち組の女になりたかったのかもしれません。
女を売るホステスとは違うやり方で。
健さんは明美さんと別れた事を遠回しに匂わせて、私と付き合い出しました。
嬉しかったけど、女慣れして遊びもお盛んだった健さんには絶対に惚れたりはしないって、境界線は引いていたはずでした…。






 

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