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禁断の果実に口づけを
第22章 ブス可愛い

 つなぎを着た伸介がピットの中で待っていた。

 「少し時間が掛かるから、一時間くらい時間潰してこいよ」

 「あっ、うん…」

 「一時間あれば終わる」

 「じゃあ、お願いします」

 「ヤリたくなったか?」

 悪戯な笑みを含み、小声で聞いてくる伸介。

 「そんなんじゃない」

 「そっか」

 素っ気なく返事をして背中を向け、作業に戻ろうとする伸介。

 「違う……違うの……」

 「あっ?」

  伸介は洋子の方に振り向いた。

 「……顔見たくなった」

 恥ずかしなり、洋子も小声で応えた。

 「取り敢えず、時間潰してこい」

 そう言って、伸介は作業に戻って行った。


 作業をする伸介をずっと見ていたかったが、邪魔になる事を避け、近くの喫茶店に入り時間を潰した。

 さっき、朋子の家で無理矢理コーヒーを流しこんだせいか、余り飲みたいとは思わなかったが、何も注文せずに居座るわけにもいかず、ケーキセットを頼んだ。
コーヒーと一緒に運ばれてきたケーキはティラミス。


 『ティラミスの発祥はイタリア。
日本語でティラスを直訳すると、[私をハイな気分にさせて!]という意味らしいわね』

 ティラミスをフォークで口元に運ぶ洋子。


 『ケーキは景気を良くするっていうゲン担ぎもあるらしいわ』


 『一目会えただけでもラッキー。
欲張ったらダメ。
幸せは自分の価値観なんだよね』

 そう自分に言い聞かせていた。



 

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