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禁断の果実に口づけを
第30章 ビターなあいつが恋しくて……
晴美が営業所を去ってから、最初はどうして辞めたなど興味津々の輩達の質問攻めにあうが、『新年の挨拶でも言ったはずです。お客様の個人情報を守る義務もあれば、働く人間の個人情報もやたらに漏らす訳にもいきません。
会社という看板を背負い、あなた方は個人事業主だという事を忘れないで下さい。
個人事業主に大切な事は信用です。
信用を失ったら、仕事が出来なくなるという事です。
そういう、大切な事を含めて察して下さい』
柿沼所長はそう一言いい、そんな輩達を黙らせた。
正確には表向きに黙らせた。
普段、成績に追い立てられ死んだ魚の様な目をしていても、それを話している時の顔は水を得た魚。
息を抜くという事が、そんな事ならば幸せはそこにはないのだろう。
暫く続く楽しい噂話も、本人が居なければやがて口にしなくなる。
また、いつもの生活に戻り、個々に築きあげた自分像を見せながら、日々を過ごし仕事する。
みんな、自分が可愛い。
自分を先に守りたい。
本来なら、他人に構ってる暇なんてない。
得をした人間は笑っていた。
手に入れたい世界は、人を陥れてでも欲しくなってしまうのかもしれない。