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禁断の果実に口づけを
第33章 ピース
「はい。
私のした事を許して下さり、温情を掛けて下さいました。
ご迷惑じゃなければ、いつか私の淹れたコーヒーを飲みに来て頂けませんか?
今、バリスタ目指して修行中なんです」
「えっ、そうなんですか!」
「亡くなった主人がコーヒーの好きな人でした。
いろんな豆を仕入れてはブレンドして楽しんでいて……
コーヒーの香りのある場所は、主人の面影を運んでくれる様な気がするんです。
そんな仕事がしたくなりました。
伴侶の居ない老後を生き生きと過ごす為の夢なんです」
「素敵な夢ですね。
その時は是非ご連絡下さい!
必ず伺います」
「はい。
その時は宜しくお願いします。
あっ、どうもすみません。
すっかりお引き止めしてしまいました」
「あっ、いえ、売店に飲み物を買いに来たんです。
いいリハビリと息抜きなんですよ。
こうしてあなたにも……
あっ、すみません。
お名前を教えて頂けますか?」
「北原晴美と申します」
「北原さんですね」
「はい」
そう名乗った婦人は、ニッコリ笑った。
✾✾✾
『悪いからいいです』と断っても、『タイヤの修理代も受け取って貰ってないんです。せめての罪滅ぼしです。これじゃあ足りないくらい』と言って笑い、売店で大袋いっぱいの飲み物やお菓子を買ってくれて、病室まで届けてくれた。
「有難う御座います」
「秋山代理、早く元気になって下さいね。
私の知ってる秋山代理は、凄くいい女ですよ!」
最後にそう言い残すと、病室を後にした。