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禁断の果実に口づけを
第37章 生きていかなきゃ
終わった恋に泣くよりも、これからの糧にして、[自分らしく]生きていこうと決めてから、強くなれた気がした。
伸介と別れた一週間後に引っ越しをし、新しい土地での生活をスタートさせた。
そこは、のどかな田畑や土手のある河原もあり、都会が失ってしまった風景をしっかりと残していた。
あちらこちらで自然に咲いた向日葵の花などを見ていると、心が和む。
何気なく、外を歩いていると、軒先にはゴーヤや朝顔のカーテンなどで暑さを凌ぐ知恵を活かした民家や何処からとも無く涼しげな風鈴などの音色が聞こえてくる。
田舎町の夏の情緒そのもののが体感出来た。
流れる汗も気持ちいい。
新しい職場の部署は、法人事業部という名はあるが、社員は私入れて四人に事務員一人という、こじんまりとした規模での仕事となった。
新しい直属の上司である営業部長の水沢耕吉(みずさわこうきち)は、定年間際の優しいおじいちゃんという印象。
赴任して初めて挨拶を交わした日、「ゆっくりでね。急がなくても必要な人は逃げたりしません。但し、心を掴んで下さい。売るものが信用なら、信用出来る人間になる時間を作るだけです」
と穏やかな笑顔で言われた。
その笑顔に安心し、肩の力が抜けていった。