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禁断の果実に口づけを
第38章 素
「ここの蕎麦美味しいでしょ」
「えぇ。とっても」
長い間、都会で暮らしていたのに、古民家カフェなどが流行りと聞いても、一度も行った事がなかった。
ここで暮らす様になってからは、古民家などは珍しくない。
街中(まちなか)に流れる川沿いを歩いていると、土蔵造りの建物がその時代に建てられたままの姿で歴史的建造物として遺されていてる。
水運を利用して、江戸勝りと言われ、商人の街として栄えた土地でもあった。
今日、青田と昼食に訪れた蕎麦屋も、二百年以上前から創業しており、中々の老舗。
休みの日を利用して、青田と歴史建造物巡りや美味しいお店巡りを楽しむ様になった。
「薫りもいいし、コシもある。小海老の天麩羅も美味いね!」
「えぇ!」
目の前の青田は、ツルツルと音を立てて、天麩羅蕎麦を食べている。
美味しそうに蕎麦を食べる姿を見てると、つい伸介と過ごしたあの夏を思い出してしまう。
恋の終わりを告げた夏を……
「ねぇ、洋子さん。
麺は、啜って音を立てて食べるのが一番美味しいと僕は思う。
ヌードルハラスメントなんて、ナンセンスじゃない?」
いつの間にか、秋山さんから洋子さんと呼ばれドキっとした。
「はい。
私も音を立てる派です。
汁も飛ばしてしまう事もありますもん」
気取らない洋子を青田も微笑ましいと思えた。