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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
私の主な仕事は、今までハイネに任せていた外からの劇団や吟遊詩人などはもちろん、祭典用の資材を運び込む業者などとの対応になりそうだ。
そもそもこんな手間のかかる嘘をついたのが発端なのだから、ハイネに関して言えば忙しいのは自業自得なのだろうけれど、玉座でぼんやりしていた様子から見るとそんなに大変ではないのかもしれない。といらぬ疑惑が湧いてしまう。
「大掛かりなものはほとんど運び込んでいるし、劇団などとのやりとりがほとんどだと思うが……」
気を取り直したジバル様はいくつものチェックシートを束ねたファイルを私に寄越し、白城の見取り図を机に広げた。その顔はさっきとは別の意味で気が進まないという顔をしている。
「なんですか?」
「二つの城を行き来することになるだろう。出来ることならオレが案内したいところなんだが……」
迷子にならないか不安。ということなのだろう。建物の見取り図自体も目にするのは初めてだが、随分と細かく入り組んでいるように見える。黒城に比べて白城はその倍以上の大きさがありそうだ。その見取り図に胸を張って大丈夫ですとは言えないけれど、自分で言い出したことだ。多少の無理は通さなくては。
私はにへへ、と笑った。
「大丈夫です。分からなくなったら近くにいる人に聞けばいいでしょ? それにこの服なら、察してくれますよね」
以前、山賊たちがこのメイド服は通常のものではなく、呪いの王様所有を表すといっていた。それが本当なら、白城を歩いて迷子になっても周りの人が助けてくれるんじゃないだろうか。おそらく。多分。
ジバル様はううん、とまた唸る。どうやら癖らしい。その仕草に思わず笑ってしまう。
「なんだ」
「だって、ジバル様、王様のふりをしていた時はほとんど話も出来なかったのに、本当はこんなに表情豊かだったんですね」
見慣れたということもあるんだろうか。髪にほとんど顔を覆われていたって、その雰囲気でなんとなくの喜怒哀楽ぐらいは感じられる。
私の言葉に彼は一瞬片手で顔を覆って、顔が露わになっていないか確認しているようだった。
「表情……?」
「ええ。落ち込んだり悩んだりしてるジバル様はとっても可愛いですね……あ、ごめんなさい」
男の人に可愛いなんて失礼だっただろうか。急いで口を塞ぐ。
「……、」
「ジバル様……?」