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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
静かに見つめられて、てっきり気を悪くしてしまったかと身を硬くするも、ジバル様は不思議な生き物でも見るような目で私を見つめ、そっと乱れていた前髪に指を伸ばして最後にふっと笑った。
「不思議なやつだな」
決して褒めらたわけではない言葉に、なのに私の血流はぐぐっと頭に集まってきてたちまち頭の先まで熱くなった。胸に抱いていたファイルがひしゃげる感覚がする。このまま口から火でも噴けそうな気がして後ずさった。
「あっ、あ、あああ、……じゃあ、私あの、白城の下見に行ってきます。それなら、いざって時に迷わないと思うし!」
「ああ、そうだな。適当な時間に戻ってきてくれ。ハイネ様のランチを運んでほしい」
「わかりました!」
私は大きく頷きながら見取り図を手早く折りこんで、逃げるように部屋を出る。
廊下のひんやりした空気に熱を冷ましながら、けれど今まで足を踏み入れる機会のなかった白城に向かう期待にほんのり胸を躍らせた。
***
「……」
指先の感覚をなくすほどの寒さを感じても尚、彼は玉座に座っていた。
膝を抱え、上質なコットンに指を食い込ませる。
開け放った窓の外からは絶えずにぎやかな音が響き、また今年もあの日が近づいてきたことを否が応でも伝える。
コンコン、と控えめなノックが響く。これはあの騒がしくて躾のなっていない犬のような娘ではない。
「入れ」
端的に応えると、見慣れたクマのような男が入って来た。
常に夜闇を纏うような姿に彼は視線だけ向けた。男は慣れた様子で玉座の前まで進み、膝を折る。
「……良かったんですか」
何を、とは言わずとも分かる。だから窓の外を再び見た。
兄という人質を取られて、姫のふりをしてこの国に来た物乞いの娘。二人じゃ大変だろうと言っていたけれど、大方この異国の獣の気でも引きたいんだろう。
自分の計画は、あの娘が来てからというもの狂いっぱなしだ。
「……お前の呪いは、解いてくれるかもね」
「ハイネ様!」
声を荒げて、焦ったように主人を見る。その視線に気づきながら、薄く笑うことしか出来ない。
そうだ。この国は呪われている。この体が呪われたのと同時に、この男も自ら自分に呪いをかけた。
自主的に、無意識に、あるいは故意に。