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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「……ハイネ様……」
傷ついた顔をしながら男はおずおずと膝で進み、王座に座る少年の手を取った。氷のように冷えたその手を大きな手で壊れ物のように丁寧に包み、額を押し当てる。無言で全幅の忠誠を示す様子をただされるがままに、無表情で少年は見下ろしていた。
「……」
毎夜姿が変わる、この幼い体に閉じ込められたハイネと同じように、この異国の血を強く受け継いだ男は「王子」という存在に閉じ込められた。
(バカみたいだ)
なんとエゴイスティックに主君である自分に依存しているのだろう。
(本当はただ、自分の罪を許されたいだけなくせに)
いつだって目を覚ませば、彼はここから出て行くに違いないのに、その目を覚まさせることがハイネにはどうしても出来なかった。
「祭典はもうすぐだから……ちゃんと、見といてよ」
「……はい」
男はまだ何かを言いたそうにしていたけれど、主君にそう言われ促されるまま部屋を後にした。
じんわりと熱を取り戻した指先で、自分の頬に触れる。
ここに来て押し寄せるのは後悔。どこから間違ったかなんて、きっとポイントはたくさんあって、その全てを間違えた結果今こうして座っている。
あと何年待てば、何十年待てば、あの太陽のような光を抱えた人が、今度は自分のために扉を開けてくれるんだろう。
「……いいな」
冷えた玉座でまた小さく膝を抱える。
呟いた言葉はすぐに消えた。
***