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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「アンタ、国王様付きのメイドかい。あらあら……大層な役回りをこんな若い子がねえ」
「王様はしっかり食ってんのかい?」
「ハイネ様も細っこいし、心配だねえ。アンタ、戻る前に厨房寄っていきな」
「アンタしっかり仕事してんのかい? あたしらをもっと呼んでくれればいいのにねえ」
「ハイネ様も祭典のことでお忙しいのさ。もうそんな時期だからねえ。あたしらも頑張らないとね」
「あ、あの……」
白城でのメイン会場になるホールや客間などの位置を確認していたら、ふいに掃除をしていた中年女性のメイドに声をかけられ、そのまま似たような掃除具を持った三人に一気に囲まれてしまった。
質問なのかただの世間話なのかわからない会話が次々飛び出して、私はたじろいでしまう。すると私を捕まえたいかにも世話好き女房という風のメイドが私の背中をばしんと叩いた。
「ほら、しゃっきりしな! 国王様に恥かかすんじゃないよ!」
「ひゃあ! えっ、は、はい!」
「それにしてもねえ、どうなんだい? 実際のところ」
「え?」
また別のメイドが辺りを見渡しながら急に声を落とす。
「やだ、あれに決まってるじゃないか。王様だよ。見たんだろ?」
「は、はあ……」
「どうなんだい? やっぱり見るに耐えないのかい?」
「アンタ、滅多なこと言うんじゃないよ!」
本当に白城では姿を見せていないのか。さっき散々細いだ忙しいだ言っていたハイネ様が王様なのだけれど、まさか私がバラすわけにもいかない。ここはもう適当なことを言うしかないだろう。
「ええ……と、見慣れれば、その、可愛らしいです、よ?」
「かわいい……?」
「まあそのくらいの感覚じゃないと国王様付きにはなれないってことかねえ」
「でも私だって、こんだけ世話になってるんだから見た目なんか気にしないのにねえ」
井戸端会議じみてきた会話の中でおやと思う。
今まではハイネとジバル様としか接してこなかったし、バーチェスの国民とは会う機会もなかった。今まで忘れていたけれどリジーが言っていた、国民の信頼が厚いというのは本当のようだ。
「皆さん、王様のこと、怖くないんですね」