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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
それは恐らく、成長しないハイネの姿が周りに気づかれるのを防ぐという目的もあるだろう。さすがに育ち盛りの年頃に見える彼と四、五年いたら誰でも気づいてしまう。働き手の育成というものまんざら嘘ではないのだろうけれど。
(って、それならハイネが引きこもってジバル様に執事やらせればいいんじゃないの?)
そうさせなかったことが、ハイネの言う贖罪ってやつなのだろうか。自ら首を絞めているようにしか見えない。
「あれー、こんなところにいたんですか」
聞きなれた声がしてビクリとする。恐る恐る振り返ると、我等が王様、いや王子様が爽やかな笑顔で歩いてきた。ジバル様に言われたランチを運ぶ適当な時間にはまだ余裕なはずだけれど、不思議とその笑顔がとても怖い。顔に「余計なことを聞くな」と書いてある。
「は、いね、様」
「あら、ハイネ様! 嫌ですよう、あたしらに黙ってこんな若い子捕まえてきて」
「はは、すみません。祭典の準備にちょっとだけお手伝いを頼んだんですよ」
三方向から次々かかるメイドたちの声を笑って流しながら、私の手を取る。
「お嬢さんはまた迷ったんですか? 王様が呼んでますから行きますよ」
「う、え、……はい」
「しっかりやんなよ!」
「また迷ったら声かけな!」
「ハイネ様の足引っ張るんじゃないよ!」
何も悪いことはしていないはずなのに、気分はまるで売られていく牛だ。背後からの声がその雰囲気を助長させている。
いつの間にかに迷った私を助けたという体になっていることは置いておいて、一体何の用だろう。
「お前は本当、サボるのが上手いね」
「さ、サボって……ないとは言い切れないですけど。下見です」
周りに人がいなくなったところでようやく掴まれた手は放された。
サボっていたと言われればそんな気もするし、情報収集といえばそんな気もする。しかし相手は王子なのであまり強くも否定できない。
「な、なんですか。監視に来たんですか? 心配しなくても見取り図あるんだから大丈夫ですよ」
フンスと鼻息荒く持ってきた見取り図を見せると、ハイネは興味なさそうに頭を掻いた。