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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
(こんな大きい国をたった一人で……)
もちろん何かを決めても実行するのは他に人がいるのだろうけれど、それでもこの規模の国の采配を取るのは重圧なんじゃないだろうか。彼は眩しそうに目を細めてから、そのまま跳ね橋の方には向かわず城の中に戻る。
「あ、あれ。町に行くんじゃないんですか?」
「違う。見せたかっただけ」
「私に?」
「見たいかなと思ってさ」
これはまさか、気遣いというやつなんだろうか。私は曖昧にありがとうございますと答えて小さな王様の背中を追った。
すぐ後ろにある大きな両開きのドアを開くと、今度は今まで聴こえなかったのか不思議なくらい圧倒されるオーケストラの音色に包まれる。ここは私がまだ確認できていなかったメインホールだ。
確かに黒城のダンスホールより倍以上に大きくて、対面には中央で合わさる階段がついている。そのすぐ下に楽団が陣取って優雅なワルツを鳴り響かせていた。
何人でも入れてしまいそうな大きな空間に頭上には大きなシャンデリアがあり、天井には優雅に天使たちが舞う様が描かれていた。まるで天国に来たかのような美しい世界に目を奪われる。
「すごいわ……」
ダンスホールの空間に息を呑んでいると、ハイネは楽団の方に進んでいってしまって、タイミングを失った私は壁際に立ち尽くしてしまう。
「……?」
ふと目に付いたのは、近くで見たことのない機械を抱えたおじさんだ。手にした機械を覗き込んだり、表についたつまみをひねったりしている。私の視線に気づいたのか、彼は人のよさそうな笑顔を浮かべた。
「珍しい格好のメイドだな」
「あっ、はい、最近ここに来ました」
焦って応えたが、なんとも的外れな返答をした気がする。おじさんは気にも留めず、手に持っていたものを掲げた。
「こいつが珍しいかい?」
「はい。それ、なんですか?」
さっきの町並みを見たあとでは、文明の違いというやつを感じてしまって、私はすっかり田舎者の気分だ。実際そうだろうけれど。彼は馬鹿にもせずにその機械を覗かせてくれた。遠くで楽団の団長と思われる人と話しているハイネをレンズ越しに見ると、とても間近にいるように見える。
「前夜祭に劇団を呼ぶんだよ。これを使ってその様子を町中のスクリーンに映すのさ」
「これを使って……?」