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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
ハイネが前に言っていたプロジェクターとかいうやつだろうか。イメージがわかず首を傾げるとおじさんは笑った。
「カメラと言うんだ。ここらじゃまず手に入らない物だが、昔国王様が異国の品を集めるのが好きでね。プロジェクターやらと一緒に買ったらしい。どれ、見せてやろう」
言うが早いか、足下においていた大掛かりな機械を起動させて豪奢な壁に四角い光を放つ。
「ここで、こうすると……ほら、どうだい」
おじさんが手元の機械のボタンを押すと、カメラを向けていた楽団とハイネが壁に大きく映し出される。ハイネはそれに気づいた様子で、ここ何日か向けられたことのない余所行きの笑顔で手を振った。
「わああ……なんだかとってもすごい物なんですね」
「そうだな。これ一つしかないから大事に扱わんといかん。そんなものを技術屋でもねぇ俺に任せるなんて、ハイネ様は随分と豪胆な方だ」
ガハハとおじさんは嬉しそうに笑ってカメラを大切そうに撫でた。その目には紛れもない誇りが浮かんでいて、私も口元を緩める。
おじさんは機械がちゃんと動くかを確かめたかったらしく、満足したのかプロジェクターの設置に出て行ってしまった。
再び一人になって、ホールを見渡すと方々でも数人が見たことのない機械を設置したり、掃除をしたり、窓側ではカーテンの設置をしていた。普段は使っておらず、祭典のために準備していることが伺える。
黒城のホールも美しく優雅だったけれど、こちらはまさしく支配階級の社交場に相応しいつくりだ。
本当なら死ぬまで足を踏み入れることのなかった縁のない華やかな空間。その中でキラキラと眩しい光に包まれるハイネと、隅の方で忙しく働く召使いたち。今までルバルドの片隅で嫌というほど感じてきた階級が、やはりバーチェスにも存在するのだ。
(そっか。本当はハイネやジバル様は、私なんかが話すことも叶わない人たちなのね)
そう思えば自分が最初からドレスよりメイド服がしっくりきた気持ちも理解できた。つまり私は、生まれながらに使われる側なのだ。お姫様にはなれない、たくさんいる町娘の一人。
そんな私が、こんな大きな国を背負う王子の呪いを解く手伝いなんて、無礼にもほどがあるだろう。
ここにきて初めて、私はルバルドに帰ったほうが良かったんじゃないかという思いが芽生えた。