この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「あっ、ありがとうございます」
彼は一瞬驚いてから目を細め、頭を下げた。
私が姫の身代わりであることを知っているのは国王と数人だけ。だから、リジー以外とは話す事なくここまで連れ来てもらった。
改めて向き直るとドレスの裾を少し掴んで頭を下げる。
「皆様、ご苦労様でございました」
馬車の中で聞いただけの付け焼き刃の礼儀作法。彼らがどれほど普段本物の姫と接していたかわからないけれど、これくらいならおかしくないだろう。リジーは馬車の前で無言の笑顔を浮かべ、頭を下げた。
「ふふ、姫様は面白い方ですね」
少年の反応に緊張しながら、今度はこけないように慎重に歩みを進めた。
まだ日暮れまで数時間はあるにも関わらず、ずっしりと目の前に立ちふさがる黒い塔に、まるで夜闇に向かうような錯覚を覚えながら。
少年はハイネと名乗った。
私よりも若く十五歳くらいに見えるのに、この国で唯一王の身の回りの世話をしている執事だというので驚いた。脅威の童顔なのか、何か理由があるのかもしれない。
裏門からでは分からなかったけれど、この国の城はどうも元々あった城から中庭を挟んでこの黒い塔と二棟を繋げているらしい。
街の方に向いた前側の城は他の家臣が住むメインの居館。その城は白く、奥に続く塔は黒い。当時、奥に別棟を増築した際に遊び心で色を変えたらしいが、今では見たままで表の城を白城、王様が居住する別棟を黒城と呼んでいるようだ。
実際に黒城で過ごしているのはハイネと国王だけで、他の召使は限られた者、限られた時間しか行き来を許されていないとハイネは説明した。
確かにメインの居住スペースでもないのに中はルバルドの城よりも明らかに豪華なつくりで国に金があるのは素人目にも分かった。けれど、どこか寒々しい。人の気配がないせいか、豪奢なお化け屋敷のようだ。
「姫様のお部屋は黒城になりますが、もちろん白城の方にいらしていただいても良いんですよ。今までの姫様方も日中はずっと白城にいらしてましたから」
「え……、でも、それじゃあ」
ハイネの提案に私はつい間近で顔を見る。