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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
きっと貴族やら他国のお姫様やら王子様やらが来るんだろう。そんなところに紛れ込めるわけがない。私が姫の真似が出来ないことはとっくに実証済みじゃないか。
からかっているのかと思ったけれど、ハイネの声は真剣そのものだったから、私は言葉に詰ってしまう。
「そんな……私なんか、無理です。さっきだって、ルバルドに帰ったほうがよかったかもって思ってたくらいなのに」
「へえ。僕はお前がこの国の呪いを解いてくれるかもってアイツから聞いてたけど。見込み違いだったかもね」
「え……?」
足が止まる。今度は完全に。ハイネも足を止めて私を見た。
「ジバル様が……?」
「聞き違いかもね。帰りたかったら帰りなよ。どうせ祭典までは数日しかないし今帰っても変わらないよね」
ハイネは興味を失ったようにそのまま手を離して、扉の方に歩いて行ってしまう。
(ジバル様が……)
――「オレは……君がもしかしたら、あの方を、変えてくれるかもしれないと思った……」
ふいに、ジバル様の言葉が頭を過ぎった。彼の期待していたのは間違いなくハイネのことだろうし、私は実際ハイネの呪いが解けないかと思ってここに残った。純粋にハイネを思っての動機とは言えないせいか少し後ろめたい気持ちにはなるけれど。
(ジバル様は私に期待している、と思ってもいい……の?)
貴族でも王族でもない、どこにでもいる平民の一人である私が、ジバル様に期待されている。ハイネも遠まわしで物凄く察しにくいけれど、恐らく居ていいと言ってくれた。のだと思う。
私ははじめて、ここに来てこの国に受け入れられた気がした。――違う。きっと今までもそれなりに受け入れてはくれていたんだろう。けれど、私自身が知らないうちにつくりあげた「姫の身代わり」という見えない壁にずっと囚われて見えていなかった。ジバル様も、ハイネも、もうずっと前から私を受け入れてくれていた。
「……は、ハイネ様あ!」
「なんだよ。騒ぐな……って汚い! 鼻水垂らしてこっちこないでよ!」
走ってその背中を追うと、ハイネはぎょっとして逃げ出す。コンパスの差か、廊下を出てすぐにハイネを捕まえた。その途端ふと疑問が湧く。
「あれ……あの、舞踏会にジバル様は……」
「ちょっと! 何気安く触ってんの、もう!」