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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
さっきのメイドたちと話して思ったことだ。ジバル様は一瞬手を止めて、ふっと笑う。
「だろうな」
「あの、私……思ったんです。ハイネ様はああ言ってるけど、実際、国民は受け入れてくれるんじゃないかなって。王様がハイネ様だって言っても、大丈夫なんかないかなって」
また怒鳴られてしまうだろうか。私は彼の様子を伺いながら、それでも思ったことを伝えたかった。だってジバル様だって本当は今の状況が良いなんて思っていないはずだ。ハイネを大切に思うなら尚更、今の状況を変えたいと思うはずだ。
「……オレは……わからない」
けれど返ってきたのは消え入りそうに小さな声だった。私は胸元に手を当てる。
「私……ルバルドにいた時、王様の顔知らなかったんです」
「知らない?」
「ええ。生きるのに必死で、王様の名前も顔も、同じ歳のお姫様がいることも、財政難だってことも、何も知らなかったんです。でも私の暮らしていた場所のほとんどの人たちはそれを知らないまま生涯を終えるでしょうし、それについて何かを思うことだってないと思います」
ジバル様は手を止めてまっすぐにこちらを見る。調理台越しに揺れる蝋燭が目の端で揺れた。
「だから、多分ですけど、お二人が思っているよりもずっと、問題は単純なんじゃないかなって思うんです。ジバル様が王様のふりをしなくたって、ハイネ様が執事のふりをしなくたって、皆は見たことのない国王様にもうたくさん感謝してるし、受け入れてると思うんです」
ハイネは怖がっているけれど、実際はきっと大した問題じゃないんじゃないか。メイドたちの話を聞いて私はそう思えた。王様である人の考え方はきっと、庶民とは違うから。
「それにハイネ様が王様だよって教えたら、それを理解したうえでお姫様が来てくれるかもしれないでしょ?」
今度は本物の、ハイネの呪いを解いてくれるお姫様が現れるんじゃないかと思う。だってそうじゃないと、彼のお姫様はいつまでも現れない。
ジバル様は私の言葉に耳を傾けていたが、その視線は私を見ていない。ぼんやりと蝋燭の火を眺めて、最後に私を見た。
「ハイネ様が、なぜあえて執事をやっているかわかるか?」