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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「そんなことを言われたのは、初めてだ」
「あ……いえ。こ、これ、持って行きますね!」
「ああ……謁見の間に頼む」
純粋な告白からの邪な眼差しを彼はどう受け取っただろう。息が詰まりそうで、急いで調理台に並んだ皿をお盆に載せると、逃げるように厨房を出た。
(あ、結局ハイネの話、逸れちゃったな)
それというのも自分の無遠慮な視線のせいなのだけれど、今更言っても始まらない。気を取り直してお盆をひっくり返さないように廊下を歩いた。
***
ハイネの言う「忙しい」は嘘ではなった。その後は毎日城内を駆けずり回り、確認や伝達に時間を費やす。目紛しく日々は過ぎていき、気づけばもう前夜祭前日になっていた。
本来の目的である呪いを解く方法など考える暇もなく、私の滞在期限が日々刻々と迫ってくるのに少なからずの焦りを抱いて床につく。
(……このままじゃ駄目なんだけどな……)
これでは本当にただのお手伝いだ。確かに今までよりもずっとジバル様のお役に立てたと思えたし、たまに隙をついてはメイドたちに囲まれて言葉を挟む余地のない井戸端会議に耳を傾けるのも楽しかった。人生で一番充実した時間を過ごしていたといってもいいだろう。けれどこのままでは、何も変わらないまま祭典が終わってしまう。
(あと少し、何かをすれば良いだけだと思うんだけど……)
けれど自分なんかが何を出来るんだろう。町中にハイネが王様だと言いふらしてまわるかとも考えたけれど、よく分からない娘がそんなことをしたって信憑性がないだろうし、あんなに広い町では言いまわるだけで何日もかかってしまう。
「……駄目だ。何も浮かばない」