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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま

閉じ込められてても、一人じゃなかったはずだ。あんな大きな城は私だけでも掃除が全く行き届かなかった。愛でるために閉じ込めておくなら、尚更身の回りに気を遣いそうなものだ。
「ハイネ様にとって、召使いは召使いだ。王族とは違う。だから、彼はオレに弱みを見せたことがなかったし、泣き言を言ったこともない。だから、彼は王なんだ」
そう言うくせに、ジバル様の表情は浮かない。後悔しているのだろうか、その表情だけで、当時のハイネの周りがどれだけ孤独だったかが想像できてしまって私は胸が締めつけられる。
なんでもあると思った。お金も、物も、食べ物も。たくさんの物に囲まれているのに、彼はあの小さな部屋で膝を抱え過ごしていたんだろうか。いつか見た、広い玉座で膝を抱え、ぼんやりと空を見つめる姿が浮かぶ。
今まで抱いていた羨ましさが急に消えてなくなるのを感じた。
僅かな自由を求めて、けれどそれがなくなってしまったときに、彼は抑え続けた感情が爆発したんだろう。
(そんなの……誰が責められるの)
たった一度、王子にあるまじき行いをしただけで彼は呪いをかけられたのか。私は胸にふつふつと湧き上がる怒りを感じて、顔をしかめる。
「それくらいのこと……」
「ここ、なんだかわかるか?」
唐突に、ジバル様は私たちが座っている東屋を見上げた。
小さく、中央にティータイム用にでも使いそうなテーブルと椅子。私は意味が分からず、ジバル様を見つめた。
「本当は、女神を奉った礼拝堂だ。ハイネ様が呪われてからは祭壇を全て取り払ってしまったが」
「じゃあ、女神像は」
「ここにあった。あのことがあってから、彼はここを庭園に変えた。見慣れた景色を変えてしまいたかったのもあるだろうが、礼拝堂だった場所を、隠してしまいたかったんだろう」
「それは……。今までのハイネの姿見てたなら、像を壊すぐらい、許してあげたらいいのに」
ジバル様は私の言葉にきょとんとしてからすぐに破顔した。
「そうだな。君くらい寛容であれば、きっとハイネ様もこんなことにはなっていなかっただろうな」
「そんなこと、ないです」
彼の言葉に胸が詰まる。
だって今までハイネを散々憎んだのだ。羨んで、妬んで、だからそんな目で見られるとつらい。

