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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま

「その……私、本当は、ハイネ様の呪いを解ければ、ジバル様が一緒に来てくれるんじゃないかって思って、それでここに残ったんです。呪いを解く手がかりでも見つけられれば、ハイネについている必要なくなるんじゃないかって……全然寛容なんかじゃないです」
本当は、自分勝手でわがままだ。
ぽつりぽつりと漏らす告白に、ジバル様の反応が怖くてうつむいてしまう。
ドクドクと大きく脈打って、密着している彼の体の熱を強く感じた。
「ああ。知っていた」
「!」
ぐいっと腰に回された手に力が篭った。私が驚いて見上げると、彼の顔がすぐそばにあった。近すぎて、月の明かりも手伝って、その髪の奥にある彼自身の顔が見える。この顔を見るのは、二度目だ。
「……知っていた?」
その表情が、困ったように笑った。間近で見る、とても柔らかな表情に私は言葉を失ってしまう。
「ミアがオレの目を綺麗だと言ってくれた時から、この子は今までの姫と違うものの見方をするから、もしかしたらハイネ様を変えてくれるんじゃないかと思った。あの時言った言葉は嘘じゃない。だから……君の兄君の手紙を燃やしたときに本当は……君を、ここにずっと置いておけないかと、……夢見てしまった」
「ジバル様……」
「けれど、それでは……王様と同じだな。今までだって、閉じ込められていたようなものなのに」
彼はそっと諦めるように身を引いた。私はその腕を掴む。熱く太い筋肉を布越しに感じながら、私は身を乗り出した。
「違います! 私は……閉じ込められてなんか……」
メイドになった瞬間から、私は自分の意思でここにいた。いたかったからだ。ジバル様とハイネと過ごしたかったからだ。兄の手紙の返事を書かなかったのは、本当はどこかで居続けたいと思っていたからだ。反対されるとわかっていたからだ。だから手紙を燃やしたと聞いてからも何かと理由をつけて手紙を書かなかった。私はどこかで望んでいた。行方不明になった妹としてルバルドでの生活を捨てて、出来ることならバーチェスで暮らしたいと。
「私は、あなたと居れたらどこだって……」
「ミア……」
潤んだ緑の瞳が見える。私は、どんな風に映っているだろうか。その大きな指先が私の頬に触れて、止まった。

