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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「……オレは、王ではないし、君の状況を変えてやれるほどの力も持っていない」
ぽつりと漏らした言葉は、どこか不安そうだ。
私は思わず見上げてその手を掴んだ。
「分かっています」
前にこの部屋に来て、服を脱いだ日のことを思い出す。
もう随分前のことのように思えるけれど、あの時は確かに王様だと思っていた。けれど、今は違う。全て分かった上で、これから起こることを期待し、覚悟している。
そこでふと、あの日、彼が部屋を立ち去ってしまった理由が分かったような気がした。
(今まで私を拒んでいたのは……もしかして、王様に向けて言っている言葉だと思ったから?)
それは決して間違いではないし、けれど間違いだ。私は向かい合うようにして彼をまっすぐに見上げた。
「ジバル様、私は一度は国に帰れました。でも、残った。それだけでも、その……私の……覚悟を、わかってもらえませんか」
最後の方は恥ずかしくてどんどん小声になっていく。けれどこの距離では全部聞こえるだろう。目を伏せると、胸元で握っていた彼の手にぎゅっと力がこもった。
「ああ……そうだったな。すまない」
こつりと額を合わせられる。同時に空いた手で私を抱くようにして、そういえば私はいつもジバル様の腕に支えられ守られてきたと気づいた。最初は緊張ばかりしていたけれど、今ではその暖かさに包まれるとほっと息を吐く。
「ミア……オレは、本来ならば、多分、こんな感情を持つ資格はないと思う。お前を騙し、傷つけた。けれど……」
ジバル様はそれでも眉間に皺を刻む。
こんなにも思いを証明してきたのに、まだ何を悩むことがあるのか。私はじれったくて、その手を離すと彼の膝に跨る様にして座った。
驚くように見開かれるその顔を包んで思いっきり唇を奪う。
「……っ!?」
驚いたせいなのかそのままジバル様の体は倒れ、まるでベッドの上で私が襲い掛かったようだ。――間違いではないけれど。
秘かにこの大きな獣を征服したような気持ちが芽生えて、ゾクゾクと興奮し出した頃にその口唇を離した。