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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
フリンは人の心に入り込むことに優れていた。
幼い頃に両親が死んでからというもの、ミアと二人で生き残るために彼が身につけた術だった。心と体を切り離して、相手の望むように行動し、言葉で操る。
自分一人ならどうにでもなっただろう。上流貴族のツバメになってもいいし、もしくは早々に旅の商人にでも取り入って、この国を出ていたかもしれない。しかしミアがいた。
まだ赤ん坊だったミアを見た時に目覚めた気持ち。汚い世界を一切知らない自分だけの天使。両親が死んだ時、フリンはできる限り側について、彼女を守ることが自分に課せられた天命だと気づいた。
それなのに、あたりが悪かったとしか言いようがない。
金を稼ぐためにミアに隠れてしていた行為のせいで寝たきりになり、目を離した隙に彼女は隣国に売り払われてしまっていた。不幸中の幸いか治療は受けられたものの、その頃には不穏な言葉を叫び狂った騎士と、未だ頼りを寄越さない妹。
平生は穏やかなフリンでもさすがに焦っていた。
「――なるほど。じゃあ山賊と戦っていたらそこにそのモンスターが現れたんだね」
本当は今すぐにでもバーチェスに乗り込みたい。しかし、何の力もない自分が行ってどうなるものでもない。王様に面通しなどさせてもらえないだろうし、知らぬと言われればそれまでだ。森で迷っているなら探すあてすらない。
何か手がかりはないだろうかと城から追い出された騎士を探して三日。やっと見つけたら、思った以上にフリンの求めている類の情報は得られそうもない。
「そうだ……けれど、アレは……。逃げる時に見たんだ」
「なんだい」
思い出し、恐怖に震えた様子で彼は宙を見つめた。
対するフリンはほとんど興味を失い、どこかでバーチェスに向かうための馬でも失敬しようかと考えていた。