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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「アレは、バーチェスの城に入っていった」
「城に……?」
「高い塀を易々と飛び越えて、城の壁をよじ登って開いていた窓から中に入っていったんだ。俺はもう、恐ろしくて、国に帰り着くまで生きた心地がしなかった」
ということはやはり、噂に聞くバーチェスの呪われた王というのがそのモンスターなんだろうか。この騎士も、姫とわざわざ二人きりで森を歩いたなんて辺りが不自然ではあるが、大方、色欲魔という噂のアメリア姫と通じていたのだろう。
(ミアに何かしていたら殺すけど……まだ使えるだろうな)
冷ややかな目で一気にグラスを空けるユーリを見つめて数秒思案したのち、フリンは周囲を気にしたように声を落として彼に耳打ちをした。
「なあ、そのモンスターを倒せば、君の信頼は取り戻せるんじゃないか?」
「……え?」
「バーチェスには昔から呪われた王様がいるというし、姫がそこに囚われているなら助け出してこそ、騎士と言うんじゃないかな。それにそいつの死体を見せれば国王だって納得するだろう?」
「し、しかし、もし本当にバーチェスの王だったら……」
「なあに、人目を気にして外に出てこないというじゃないか。そんな王が一人死んだところで誰が気づくんだ? 政治なんてほとんどは側近連中が動かしているもんだろう?」
「……」
突然の提案に、ユーリは手元を見て黙り込んだ。
本当のところ、バーチェスの国王が死んだってかまいやしない。国民が困ろうが、ユーリが捕まろうがどうってことない。ミアがこの手に戻って来ればいいのだ。
決めかねている様子の騎士に、そっと耳打ちする。
「君が命がけで助けてくれたとあれば、アメリア様は身も心も君に捧げるだろうなあ」
「アメリア様……が……」
まるで甘い悪魔の囁き。
ユーリの目に狂気が宿るのを見て、フリンは満足そうにグラスを傾けた。