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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
前夜祭は朝から賑やかだった。日中からでも花火がバンバン上がり、劇団や吟遊詩人たちが次々と城に入る。人手が足りないと慌しいメイドたちに引きずられて、ほとんどの時間を雑用しながら白城で過ごした。
もう二日しかない。それなのに、朝目覚めると隣で安らぎに満ちた顔で眠るジバル様が隣にいて、まるで胸から花がいっぱい溢れ出すような気持ちになった。
ふとした瞬間に昨夜のジバル様の陶酔したような甘い呻き、熱、甘美な汗一滴まで頭を過ぎってはニヤニヤしてしまった。
それだけに満たされて、あとはもう、考えることをやめてしまおうかとさえ思ってしまう。
ほとんど呪いの件は諦めていると言ってもいい。何故なら何一つ解決策が浮かばないのだ。
今更姫をまたどこかから来てもらうにしても、どうしたらその姫が執事役をしているハイネを好きになるか分からない。
だから本当は忙しくてほっとした。
呪いが解けなければ私がここに居ることが出来るのはあと二日だ。忙しければそんな余計なことを考える暇がない。目の前のことに夢中になっていれば、二日後のことなんて考えなくて済むから。
(今は、目の前のことに集中しよう)
私は自分にそう言い聞かせることで、間違いなく焦り、痛む胸から目を逸らそうとした。
落ち着いたのはもうそろそろ前夜祭を始めるという夕方だ。
へとへとになりながら白城から自分の部屋へ向かっている途中、もう部屋に引っ込む時間だろうに、少し焦った様子で城内を走り回っていたハイネに声をかけられた。
「え……?」
「別に着たくないならいいけど。参加したかったらこの招待状も持って行きなよ」
そう言って両手に抱えていたのは純白のドレスだった。可憐なレースと細かな刺繍やビーズが縫い付けられてあって、私が持ってきた物よりも明らかに高級なのが見て分かる。
「え、こんな高そうなドレス……いいんですか?」
「もう手が疲れるから早く持ってよ。他に着る人もいないんだからいいんだよ」
ぐいっと押し付けられるようにして寄越された。その上にぽいっと招待状が入った封筒を乗せられる。
「あの!ハイネ様は……?」