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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
ジバル様は早合点したことに気づいて少し気まずそうに視線を漂わせていたけれど、小さく唸るとまた微笑んで私を見つめた。
「すまない。本当に、とても綺麗だ」
「えへへ……、それで、どうせだから、踊ったりしたいなって……」
「踊る?」
「あの、上の階の、ホールで……とか、ダメですか?」
もじもじしながらここに来た本当の理由を告げると、彼はすぐに理解した様子で頷き、私の手を取った。
「そんなに可愛らしいお願いをされては、断れないな」
「ありがとうございます! あの……それと、相談なんですが――」
「失礼します!」
ドアの前で三回深呼吸をしてから勢いよくドアを開ける。
前に来た時と同じく破壊の限りを尽くしたような部屋の奥に彼はいた。日が沈み暗闇の中でもうっすらとその影はわかる。
「は……?」
おそらく唖然としているんだろう。その顔を日中に見られなかったことを残念に思いつつ、ずかずかとドレスの裾を握って近寄っていく。がさがさした声と大きな獣の気配。本当にこれがハイネだとは未だに信じられない。
身じろぐのが伝わって、手探りでその体に触れた。途端、びくりと震える。
「っ!」
「さあ、行きましょう」
「は……何?」
「ダンスパーティーです」
呆然としている太いその腕を引いた。
舞踏会には本当は私よりも、王子が参加したいんじゃないかと思った。
嬉しそうに祭典のことを語って、楽しそうに準備の様子を確認して回って。だからそんな日に、一人で暗い部屋の隅に閉じこもっていてほしくなかった。