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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと

「で」
「少ない蝋燭の中なら、私の目も気にならないかなって」
ハイネに「王様は自分だ」と告白された時以来足を踏み入れるホールには、すでに端々に蝋燭が置かれていて薄ぼんやりと明るい。その端にあるピアノの前にはジバル様が座る。
「何、躾のなってないペットに振り回されてるの」
ハイネは呆れたようにジバル様にぼやく。
隣に立つ彼の変身した姿は、まだ直視することができない。けれど、手を繋いでここまでは来てくれた。
「ハイネ様がダンスを教えられたとか」
「知らない人たちの前ですっ転んだら可哀想だと思っただけだよ」
「すっ転んでもハイネ様なら安心ですね!」
私の言葉に、あからさまに面白くなさそうな気配がする。
「……お前はいいの」
「え?」
ポツリと呟く声に、私は首をひねる。
(ジバル様とのことかしら……?)
彼が話したとしてもおかしくはない。だからなんてことはないと頷いた。
「だってハイネ様じゃないですか」
「っ……、なんかムカつく」
「え」
「ほら、踊るんでしょ。ちゃんとついてきてよね」
「あっ、はい!」
ペタペタとホールの中央まで進むハイネをわたわた追う。ジバル様は微笑んで眺めてから、そっと鍵盤に手を乗せた。
(そういえば、ジバル様って……)
任せてしまったけれど、ピアノは弾けるんだろうか。私なんて触ったこともなかったから論外だけれど、彼も弾けないなら伴奏なしになってしまう。
しかし、そんな心配はすぐに消えた。軽やかな音色が鳴り響いたのだ。
「……すごい」
「僕の遊び相手やってたんだから当然でしょ」
どこか自慢げに話すハイネについ口元が緩んだ。
彼はほんの少し緊張した様子で私の手を取り、腰に手をそえた。その視線が交差する。
(あ……ハイネだ)
ふいに、まるで今はじめて気づいたように醜い姿と普段の姿のハイネが重なる。
ここに来る時もどこか無意識にハイネから視線を外していた。見たらまた恐ろしくなってしまうかもと思ったからだ。けれど、目の前の牛男に似た厳つい姿の彼は、間違いなく私の知っているあの愛らしいく小憎たらしいハイネなんだとはっきり分かった。
彼は私の視線を振り切るように前を向くと、「行くよ」と小さな声で合図を出した。

