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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと

ぐっと大きな一歩を踏み出す。今度は足を踏まなかった。


「そう、その調子。音に合わせて、焦らないで……」
「……」


最初は緊張していたものの、すぐにジバル様以上に大きなハイネの手に引かれるようにして音楽に身を委ねていく。時折彼が腕を上げると、まるで宙ぶらりんの人形のように私の体はくるりとさせられる。どぎまぎして、けれどそれも楽しい。気づけば私は心から楽しんでハイネと踊っていた。


「ほら、もう一回」
「あははっ……ひゃっ!」
「っ!」


ふとまたドレスの裾を踏み、バランスを崩して一瞬離れそうになった。後ろに倒れそうになった体をハイネの腕が支える。

気づけばすぐ目の前に焦った様子の青い眼が二つ、こちらを見ていた。


「ハイネ、様」


その近さに目を見開く。

私の視線をどう受け取ったのか、彼は私からぱっと目を背けた。床にへたり込んだままの私をそのままに、伴奏を続けるジバル様の元に向かっていく。


「おい、疲れたからお前が相手しろ」

「……よろしいんですか」
「たまにはピアノも弾きたい」


ハイネの言葉にさっさとパートチェンジを果たすと、今度はさっきよりも柔らかでゆったりとした音が鳴り始めた。


「オレのお相手もしていただけますか?」


ジバル様は私の前まで来ると、優しい笑みをたたえ、仰々しくお辞儀をして片手を出した。

私は答えられず、狼狽えて、二人を交互に見るとジバル様が困ったように笑った。


「ちょっと、僕の演奏じゃ踊れないとかなら引っ叩くよ」
「い、いえ! 喜んで!」

ハイネの本気か冗談か分からない野次に、ジバル様の差し出す手を急いで取ると、彼は笑顔を咲かせる。重なる手は暖かい。

彼も少しぶつかるくらいじゃビクともしなかった。けれどリードするハイネと違い、私の調子に合わせてくれる。穏やかで優しい音色にさっきよりもスローなテンポ。体を預け、寄り添うようにして彼の体温と呼吸を感じる。


「……ありがとう」

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