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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
ふいにそんなことを言われるから、私は彼に視線をやった。もしかしたら踊り始めてからずっと私のことを見つめていたのかもしれない。
「何がですか?」
むしろ踊りたいのは私で、二人には付き合ってもらっている側な気がするのだが。そう考えると王子に伴奏してもらいながら騎士と踊るなんて、今更だけど随分贅沢な状況だ。
じわっと手のひらに汗が滲むのを感じていると、ジバル様は笑った。
「君が君でいてくれたことにだろうか」
「……?」
「あの方が踊るのも、ピアノを弾くのも久しぶりに見た」
「そうなん、ですか?」
意外なことを聞いて首を傾げる。
昨日は自分から踊り始めていたから、てっきり気が向いたらいつでもそこら辺のメイドを捕まえて指南しているのかと思った。
(だって教えるのあんなに上手かったのに)
私は覚えもいい方じゃないし、運動神経も悪い。だからきっと今こうやって踊れているのは、純粋にハイネやジバル様のリードのおかげなんだと思う。そして私が焦らない程度のテンポでピアノを弾くのも。
「ハイネ様もジバル様も、ピアノがお上手なんですね」
「ああ……オレはハイネ様ほどじゃない。こんなことがあるならもっと練習しておくんだった」
くっくと苦笑する。その顔が好きだと思った。
知らずその距離は近づいて、綺麗な緑の目に見つめられ、夢の中にいるような心地で音楽に身を委ねる。
(今死んでもいいって、きっとこういう時に思うのね)
天使に祝福されているような演奏に包まれて、大きく逞しい騎士の腕に抱かれて揺れる。
密かなパーティーは時折役を替え、夜遅くまで続いた。
「――はあ、もう疲れた。僕はもう寝るから、あと適当にやっといて」
ハイネが声を上げたのは、ちょうど私が適当な伴奏をしてジバル様とハイネが踊っている時だった。
当初は「男二人で何が楽しいの」とぶつくさ言っていたハイネも、ジバル様と踊り始めると剛健な男二人が組んでいるとは思えないくらい美しく舞い踊った。
私の出鱈目な伴奏にも文句を飛ばしながら楽しそうにしていたので、事実眠いのだろう。
(こんなところはお子ちゃま……)
「お前が何考えてるかくらい分かるからな」
「ぐっ……」