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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
ピアノの影でニンマリしていたことが、まさかバレているとは思わなくて唸ってしまう。ジバル様は苦笑しながらハイネを見送った。
「二人になっちゃいましたね」
「ああ、もう眠いか?」
確かに日中も駆けずり回ったし、ベッドに入れば数秒で眠れるだろう。けれどここに居られるのも残り一日と思うと一秒だって勿体無くて、首を振る。
「では、こちらにおいで。少し話そう」
ジバル様は一箇所だけ窓を開けた。
新鮮な空気とともに、どこかで奏でているのだろうバイオリンの旋律が微かに響く。空には雲ひとつない夜空に、欠けた月が浮かんでいた。
「きれい……」
その月に思わず見惚れた。ジバル様は私の背後に立ち、軽く腕を回して同じようにその月を眺めた。
穏やかにドクンドクンと力強く打ちつける心臓の鼓動が伝わってきて、私はまた昨夜の情事を思い出してしまう。
(私ったら……はしたないわ)
彼の濁りのない目に映る月明かりに少しの嫉妬を感じながら、その腕に頭を預けた。
「……不安か?」
ふとそんな声がして見上げると、彼は困った顔で額に軽い口付けを落とす。
(不安なこと……)
明日もまた、今日みたいに過ごして終わってしまっても、それは私の人生で一番大切で幸せな思い出になるだろう。
ルバルドに帰ってたら、もう私は元の生活には戻れないだろうけれど、兄さんと助け合って頑張ってみるのもいい。
悪くない、貴重な体験をしたと思ってルバルドに戻ってもいい。
(……そう思えたらいいのに)
私は知らず、ジバル様の腕をぎゅっと握った。
「ミア?」
この優しい声も、守る腕も、温かい心も、知らなければきっと。
「……私、ここに来る前、なんとなく生きてたんです」