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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「……」
背中に伝わる彼の体温に包まれている。それだけで満足なのに、今はそれを知らなかったら楽だったかもしれないなんて思っている。同時に、その熱を失いたくない私が存在する。
「兄さんに言われるまま、ただなんとなく。毎日食べ物があれば幸せで、なかったら明日に望みをかけて。ほとんどは兄さんの稼ぎで、私は何も。物乞いなんてしてても恵んでもらえることなんかほとんどなくて、それで……兄さんは多分、私に言えないことをしたと思うんです」
私を抱いているジバル様の指先がピクリと反応する。
私は今まで誰にも言うことが出来なかったことを口にした。
「ミア、それは……」
「兄さんがそれを隠してるのが分かったから、気づかないふりをしました。でも私は内心……喜んだ」
まるで懺悔だ。最愛の人に、自分のこんなことを話すなんて間違っているのかもしれない。嫌われるかもしれない。けれどその腕は相変わらず私を夜風から守るように絡んだままだ。
「これで飢えることがなくなるって。ただそれだけで、兄さんの気持ちや辛さを理解しようとしなかった。気づかないふりをして、見過ごしたんです。だから、病気になったとき、私……天罰が落ちたんだと思ったんです」
ぽろりと、一滴涙が落ちた。
頬を伝って、それは彼の腕に落ちてシャツにシミを作った。それが滲み、広がっていくのを眺めながら口を開いた。
「本当はあの日、国王様に連れて行かれた日、私……」
「ミア」
「体を売ろうとしてたんです」
今までずっと、心に錘がついていた。
誰にも言わなければ分からないこと。誰にも気づかれなくて良いこと。
嫌うかもしれない。軽蔑するかもしれない。それなのに、彼には知ってほしかった。
自分の心の醜さなのか、覚悟なのか、よくわからない感情で私はその全てを話した。
残ったのは後悔と、開放感。
静かなままのジバル様を不安に感じて、私は後ろを振り返ることが出来ない。このまま背の体温が消えてしまうかもしれない。なのに、動けなかった。
「……」
彼の腕がピクリと動いて、その体が引く。熱い手が私の肩に触れて、振り向かされた。
温かな二つの目。
「そうか」