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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
てっきりジバルに関する仕打ちを抗議するためかと思ったけれど、それならこんな鎖は必要ない。元々、彼女の前から逃げ出したことなんかないから、どういう意図でつけているのかが分からない。そう思っていたら不意に、思いがけない言葉が呟かれた。
「は?」
「お祭り、やってますね。祭典」
どんな腹でいるのか分からずに、ハイネは警戒しながら頷いた。
知らないわけがない。だって祭典は、ハイネが始めたことだ。
「日頃働いてくれている国民のために、国を挙げてのお祭りって聞きました」
「そうだよ」
「だから今日は、どんな職業の人でも休んで、浮かれていい日だって」
「そうだね」
そのためにつくった日。
「じゃあ、なんでハイネ様はここにいるんですか」
「……」
死にかけの猫を助けてほしい。例えるなら、そんな顔で問いかける。ハイネはしばらく黙ってから口を開いた。
「……呪われた、王様だから」
醜く、忌み嫌われる存在だから。
そんなものは人前に出てはいけない。
ただそれだけのことだ。
「ハイネ様は、国民が好きですよね」
また唐突に話が変わる。本当に、この娘は何を考えているんだろう。
ハイネは少し考えてから頷いた。
「じゃあみんなに、話してもいいんじゃないですか?」
「話す……? 何言ってるの」
「自分が王様だって」
ハイネは笑った。
「唯一の親も見捨てたのに? 赤の他人がどうして受け入れると思うの」
「ジバル様は受け入れてるでしょ! 私だって……。ハイネ様は、愛されるべきです」
しんと冷えた空気に溶け込むように消える言葉。
彼女の言葉はハイネの胸を切りつける。もう何度だって、会ってからというもの、この娘の言葉は、視線は、行動は、事あるごとにハイネの心の奥底に頑丈な錘をつけて沈ませた人を思い出させる。