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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
近隣の国から姫の身代わりとして来たこの娘は、ハイネの婚約者によく似ていた。

見た目はもちろん似ても似つかない。けれど、彼女と接するほどに、目を背けていた記憶の中の少女と重なった。それがハイネにとっては辛かった。

(逃げたくせに……)

少女は逃げた。この娘も、醜い姿を晒したら目を恐怖に引き攣らせて逃げていった。

本当は、期待していた。
少女によく似たこの子なら、もしかしたら自分の姿を受け入れてくれるのではないかと。

反面、願っていた。
醜さに怯えて、この城から出て行ってくれないかと。

ハイネはこの娘が苦手だった。家族の身と引き換えにしながら、逃げ出さないまっすぐな目が。真実を知っても尚、ここに居たいと言った覚悟が。


(けどそれは、僕に向けられたものじゃない)


ハイネの胸は苦しかった。もうずっと、何年も。けれど今更引けない。知らず痛む胸を抱えて、目を細める。


「愛される、ね。……ねえ、執事のフリをはじめた時、どうして他の召使いに王子だってバレなかったか分かる?」

「えっ……いいえ」


「その前からずっと、六歳の時から僕は十年間黒城に閉じ込められてたからだよ。世話役はアイツだけ。僕の存在は国にはほとんど知られてない。覚えられてないんだ。わかる? ねえ、僕という存在は六歳の頃に死んだの。いないはずの王子が呪われたからって、誰が心配するの?  誰が愛してくれるの!!」


ガチャンッと大きく鎖が鳴った。ハイネが拳を握りその鎖の上に叩きつけたからだ。
ジンとする手を構わずに、視線で射殺すように娘を睨みつける。

妃が死んで、国王は変わった。
今まで野放しにしていた鳥の貴重さに気づいたように、せっせと城の中に閉じ込めてしまった。まだ理解するには難しい年齢で、ハイネは婚約者が来た時だけ、中庭に出ることを許された。

まるで囚人。

それより前に一度だけ、街を視察したことがあった。その時に圧倒されるほどの人の群れと、その幸せそうな顔が今でも忘れられない。

自分は決して立ち入ることが許されていない、太陽の下。人ごみの中。


その太陽の世界から、ハイネが暗闇の城に引きずりこんだのが、ジバルだ。

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