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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「ジバル様は、あなたのことを愛してます」
「違う! あいつは許されたいだけだ! 僕も、許されたいだけだ……」
ずっと秘密にしていることがあった。
その事実を受け入れてしまえば、ハイネは生きていけないと思う。だから、考えないようにしている。
そして、おそらくジバルも、彼女に嘘をついた。
この娘が思っているよりもずっとずっと、ハイネとジバルの関係は入り組んでいる。けれど言えない。言ったら、もしかしたらジバルじゃなくて自分を好きになってくれるかもしれない。けれど、それができない。
ただちょっとの気まぐれで助けた、それだけのハイネに心酔しきっているジバルは、どんなに辛くあたってもそばを離れなかった。
そんな彼を恨んでいた。けれど、どこか居心地が良かった。
しかし状況は変わってしまった。
どんなに醜い姿に変わっても、非道ともいえる役回りをさせても離れなかった彼は、この娘にならついていくだろう。だからきっと、今日でジバルも最後だ。そしてその背中を止めることも追うことも、王として育てられた自分には出来ないこともわかっていた。
だって、ハイネは彼を止める術をもっていない。
(ああ、本当に、あいつの呪いをこの子が解いた)
昨日のダンスホールではっきりと分かった。
はじめて見る、ジバルの穏やかな笑顔。その視線をうっとりと受け取る彼女。それは昔に見た、町の人たちと重なった。自分とは違う世界。自分には許されていない暖かな場所。
沈黙は何分にも感じられた。
窓の外が暗くなっていく。最初からつけられていたのか、部屋のあちこちではすでに蝋燭が灯り完全な闇にはならない。
体が疼きだし、息苦しい。
全身の骨が軋み、歪むのを息を殺すように呻いて耐えるとまたいつものように、自分を直視できない醜い生き物に変わった。