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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
締めつけたまま、解けない鎖を見る。
さっきは細く華奢な腕だったのに、今はもう何倍にも膨れ上がり、節々は膿んで、爛れて、まるで野獣の手だ。
「……前に、言ってたね。自分が姫だったら、呪いを解いてあげられたのにって」
この姿になってからの自分の声が嫌いだった。
洞窟の奥で、虫が蠢くように全身にこだまする気持ちの悪い声。
本当は手も、足も、自分の姿だと認識する全てが嫌いだった。
何も見えない暗闇の中が一番落ち着いた。誰も自分を恐れない。自分も自分を憎まない。
そこから無理矢理引っ張り出したメイドは、少し驚いた様子で頷く。
「え……うん」
「どうしたら、僕は君の王様になれたのかな」
気づけばそんなことを口走っていた。
馬鹿げてる。こんなこと呟くなんて、薬でぼんやりしているせいだ。
正気の時だったら、王様である自分が、ただの物乞いの娘にこんなことを言うはずがない。
「……ハイネ」
彼女は何かに耐えきれないように一歩前に踏み出した。その瞬間、何かを足に引っ掛けて、カーテンの隙間から見慣れた機械がガチャンと音を立てて倒れた。
「……、あ」
小さなレンズがこちらに光る。その機械が何か、そして何を意味しているのか分かって、一瞬、心臓が止まる。
「ああああああぁぁぁあぁぁああぁあああああぁぁぁあぁぁあああぁぁぁあぁぁああぁああああぁぁぁあぁあぁぁぁぁっ!!!」
「ハイネ!」
気づいた時には絶叫していた。どう止めたらいいのか分からないほど、気持ちの悪い声が喉の奥から迸る。瞬間、自由な方の手で顔を覆いながら繋がれている手も力任せに引っ張る。
鎖が手に食い込む。皮膚を破り血を滲ませても、その鎖はガチャガチャと重い音を立てながら玉座を揺らすだけだ。体を縮こませ、顔を覆い出来るだけカメラから隠そうと王座の反対側に身を隠した。
「ダメだ……いや、だ、……お願いだから、許して……そんなの、無理だ……」
見られた。
国民に?
メイドに?
召使いに?
どれだけの規模で流した?
プロジェクターが昨日のままなら、その誰でもが見ることが出来た。
この世にもおぞましく醜い姿を。